昨日の夜、タクシーに乗った。
私にはとても珍しいことだけれど、昨晩とある会に出席、最終バスを逃した(2つとも珍しい)。
2台のタクシーが停まっていて、前の1台はランプが付いてなかった。乗っちゃダメなのかな?と後ろのタクシーへ。すると運転手さんは「前のタクシーに乗り!」と言う。ま、乗ればお金は入るが色々とややこしいルールがここにも存在するのだろう。前のタクシーのドアをノックノック。運転手さんは窓をスルスルと開け「なんやねん!後ろのタクシー乗るんちゃうんかい!」と怒鳴った。怖え。や、しかしここは大阪。我が故郷、大阪。怖がってる場合ではない。「まちごうたんよ!乗せてよ!いいですか!」と大きな声で言ってみたならば(こういう強気って咄嗟の本能で出てくるからすごい)、ハンチング帽を深く被ったおっちゃんは「もう!」と後部座席のドアを開けた。あ、今書いてて思うけど、こういうときみんな乗っちゃダメだよ。私は「よし、勝った」の勢いで乗っちゃったけど、危ないよね。どんな運転する人か分からんし。反省反省。
乗り込んでおおよその行き先を伝えると、「ええ、ちっかいな〜…」と心の声をそのまま出すおっちゃん。私、諦めモード。家に着くまで、このおっちゃんには何も期待しない。しかし行き先は伝えねばならないので、ここはひとつ、心穏やかに。
「次の角を右にお願いします」
「ええ?右!?もう!!」
「そのまま真っ直ぐお願いします」
「ええ?真っ直ぐ!?もう!!!」
なんだなんだ、何に怒っているのだ。このやりとりで私に非がないことがはっきりしたので、少し気持ちが楽になり、背もたれにふんわり身を委ねながら、いつもは昼間しか知らない場所の夜の深いところをじっと見ていた。
タクシーとは不思議な乗りもので、乗っているときの、あの心がずっとぷかぷか浮いている感じは一体どこからやってくるのだろう。バスを逃したとき、道に迷ったとき、知らない土地へ出張のとき。大抵の場合は「いつも」を少し逸脱したときに乗るものだから、身体もなんとなくそんな記憶を溜め込んできたのかもしれない。小さい頃はタクシーも、普通の車だったのかな。
タクシーが家の前に着いた。1秒でも早く出たい。料金。いくらですか。1240円。はあい。1240円。ちょうどありました。これで。ありがとうございました。
「お姉ちゃん、レシートは?」
「あっ、レシート…ください」
「せやろ、税金のことととかあるしな」
え、おっちゃん、私の確定申告の心配を?している??の?
レシートがジジジーっという音とともに出てきた。
「あっ!!」
レシートを見たおっちゃんは小さく叫び、
「見てみ、今、料金とぴったし同じ時間やでえ、12時40分!ええことあるわ!」
と、ものすごくいいものをくれるみたいな感じで私にレシートを渡した。
なんや、ええ人やったんか。
「あはは、ほんまや!おっちゃんもええことあると思います、じゃあまたねえ」
また会えるんはいつやろ。おっちゃん、お仕事は緊張するタイプなんかもなあ。
(よく見たら年度が2021になってる!これ、申告の時あかんやつ…)